すぎた きゅうしん
杉田久信の “現場”
からの教育提言
 ≪基礎学力で教育再生≫

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校長室の窓から

音読・暗唱が子供を元気にする

富山市立山室中部小学校 校長室通信        第4号  (平成17年7月8日)

毎日学校を回っていると、各教室から明るく大きな音読の声が響いてきます。下学年はより活気があります。子供たちの元気で心地よい音読の声に、回っている私までもが元気になってきます。音読の重視は、「これまで以上に基礎学力を徹底していく」という今年度の教育方針の一環です。これは、かなり全校に浸透してきたようです。先生方の熱心な努力で子供たちの音読のレベルはずいぶん向上しています。また、これに伴って子供たち全体の「学習への構え」や「学習規律」の向上も感じられます。

 今回は、この音読・暗唱の意義と効果について考えてみたいと思います。

国語力向上のためには音読・暗唱が効果的

国語力は全ての学習活動に必要とされるものであり、学力の最も基本となっているものです。国語力の低下は、他の教科の理解力低下にも直接つながります。このことから考えると、近年の学力低下の背景には国語力の低下がありそうです。国語力とは突き詰めれば、他人の言葉が理解でき、自分の言葉で表現できることに他なりません。国語力は普通どのように身についていくものでしょうか。まず、乳児期からの親の豊かな「語りかけ」と親子の「コミュニケーション」から始まり、幼児期の「絵本の読み聞かせ」、学齢期の「音読・暗唱」練習や「読書習慣」などで国語力の基礎が培われます。これらは全て必要なものです。近年、読み聞かせを繰り返すことの大切さが一般にも広く理解されています。しかし、読み聞かせ以上に音読・暗唱は国語力をつけるのに効果的であり必要不可欠なものです。 音読に親しめば言語に対する感受性が高まります。これが国語力の向上につながるようです。 音読の重要性が理解されてきたのは、ごく最近のことです。脳科学の発達で、「音読と単純計算が、大脳を最も活性化させる」という効果が明らかになってきたことや、超ベストセラーになった齋藤孝著の「声に出して読みたい日本語」などの影響によるものです。それまでは、音読・暗唱の反復練習は、考える力につながらない昔の学習法と見なされて、学校ではずいぶん軽視されてきました。 小学校で十分な音読教育がされてこなかった、それこそが今日の国語力低下の主要な原因 の一つになったと私は考えています。事実、音読がまともにできないのは小学生だけではなく、中学、高校生でも決して少なくないのが今日の現状です。音読が苦手なら、本や雑誌、新聞さえも一切読まない大人になってしまいます。今日、そんな若者が珍しくなくなっています。音読すらまともにできなくて、国語力が身につくことはあり得ません。

音読の素晴らしい効果

音読の効果は絶大です。私の経験からすると、勉強が苦手な子供や落ち着きのない子供でも、大きな声で堂々と流暢に音読できるようになると、自信をもち精神的に安定してきます。 声を発することにはストレス発散効果や精神の安定効果がある ことは間違いありません。

また、音読に力を入れて取り組むと、子供たちは授業や人の話がよく聞けるようになってきます。学級全体の学習態度や学習規律も高まっていきます。さらに、 子供たちの集中力が高まり、理解力や記憶力向上などの能力開発の効果 も現れてきます。実際に、声を出すことによって全神経を集中させることができるので理解力が高まり、同時に自分の声を耳で聞くことができるので記憶もより確実になります。音読への自信は、自ら話をする力や読書力、書く力にもつながっていきます。

音読は心や頭にいいだけではありません。何よりも、 音読・暗唱の最大の効果は、声を出すことで元気になる ということです。しっかり音読すれば、まず脳が熱くなってきて次第に体全体も暖まっていきます。頭と体が活性化してきて、活力が湧き元気になることが実感できます。これは、「元気だから声が出るのでなく、しっかり声を出すから元気になる」という感覚です。

また、音読で声を出し口を動かすことは、唾液の分泌を促し胃腸にもよいと言われています。音読を続ければ肺活量も増大して、より健康になるといった効果もあるようです。

さらに、音読がレベルアップして表情豊かで美しい声が出るようになれば、表現力のある魅力ある人物にもなることができます。

音読・暗唱の教育の中から優れた人物が多数育った

歴史的に見ても、読み・書き・計算、とりわけ音読・暗唱を重視している国や民族から創造性あふれる優れた人物が多数育っています。例えば、ノーベル賞の3分の1がユダヤ人であるといわれていますが、ユダヤ民族の教育の中心は幼児のときから膨大なユダヤ教の経典を徹底して音読・暗唱させることで知られています。また、フランスでは古典の詩歌を厳しく暗唱させています。それが、美しいフランス語を大切にする風土になっています。ドイツのかつての幼児教育では50もの民話を暗記させて自分でお話できるようにしていました。イギリスで最も繁栄したエリザベス女王の時代の教育は、ラテン語の文章の音読・暗唱を中心にした教育で、優秀な人物や英雄が多数育ったといいます。

日本でも明治のころに個性あふれる英雄・偉人たちが多数出現ましたが、これは江戸時代後期の寺子屋や藩校で盛んに行われた論語などの漢文の素読・暗唱の教育の成果であると考えられるのです。 

音読・暗唱の教育は記憶力ばかりか創造力も高めるようです。戦後日本で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士は、幼少期から四書五経の素読を教わって育っています。素読では意味の理解は問わず、ひたすら音読を繰り返します。すると、心の底に深く根ざした真に生きた言葉として育っていくのです。これは、意味の理解を早急に求めるのでなく、言葉そのものを繰り返し心の底に刻みつける方法です。これは脳の力を伸ばす上で極めて効果的な方法なのです。この古くからの教育法は、今日、 「右脳によるパターン認識学習」と呼ばれて再評価されてきました。音読・暗唱を繰り返す中でパターンを認識し、脳の深層部への記憶回路を開こうとするものです。この伝統的な教育法をとれば、 意味も分からずに暗唱した名文等が、後に子供たちの教養や知性の確かな骨格になっていく のです。実際に、「意味も分からずに丸暗記させても本当の学力にならない」と非難される逆境の中で、名文・詩文、百人一首などの音読・暗唱に力を入れてきた先生がいます。10年以上たって、多くの難関大学に入学した大学生たちを含む教え子たちから一番感謝されたのが、小学校時代のこれらの暗唱であったといいます。

多くの国々では、古典などの名文が学校教育の中で音読・暗唱され、国民共通の文化になっています。日本でもようやく名文、古典などの素読や暗唱、朗読などの教育の重要性が理解されてきたことは歓迎すべきことです。本校でも今後は、音読・暗唱させる教材を教科書だけでなく、名文や古典などにも広げて行けたらと思っています。

本校では、音読(暗唱)を宿題にすることを奨励しています。保護者の皆様には家事をしながらでも、子供の音読を聞いて、ぜひ、ほめたり励ましたりしてください。保護者の皆さんに音読を聞いてもらうと、子供の音読の上達はまるで違ってきます。よろしくお願いいたします。

★  早寝、早起き、朝ご飯。テレビとゲームは時間を決めて

      これらの生活習慣の確立に格別のご配慮をお願いします。

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