すぎた きゅうしん
杉田久信の “現場”
からの教育提言
 ≪基礎学力で教育再生≫

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校長室の窓から

子供を元気にしながら 学力を伸ばすA 「基礎学力の強化なくして学力向上なし」

富山市立山室中部小学校 校長室通信        第13号  (平成17年5月16日)

基礎学力の軽視が、さらなる「学力低下」と「学校の荒れ」をもたらした

1980 年代から日本全国で顕著になってきた子供たちの「学力低下」「荒れ・切れ」は、 90 年代になると治まるどころか急激に一層悪化していきました。その傾向が明確に出ている「中学生の不登校生徒数の変化」(文科省データ)を見ると、 1981 年に約1万2千人から急増し 1989 年には4万人を超えています。この後4〜5万人の状態が続きますが、 1995 年頃から再び急増し始め 1999 年には約9万人に なっています。また、小・中・高の校内暴力も、 1985 年は約4千件だったものが 1995 〜 96 年から激増し始め、 2000 年には3万5千件に も( 2001 年からは減少傾向)なっています。

 さらに、各種の国際的な学力比較調査や東京大学の苅谷剛彦教授の調査などで、 90 年代は学力の低下が深刻だったことが明らかになっています。なぜ、こんなことになったのでしょう。

80 年代の学校の荒れは社会構造の変化(社会の夜型化等)の影響を受けて始まったものですが、教育評論家は、生活改善を問題にすることなく「生活指導は家庭の個性と自主性に任せるべき」とし、むしろ、「指導要領の詰め込み主義が悪い」「学校の画一教育が悪い」と一斉に唱え、これが大きな世論となりました。そこで 1989 年に登場したのが「新しい学力観」でした(学習指導要領の施行は 92 年 4 月)。

 「新しい学力観」では知識の量よりも考える力が重要であり、詰め込み教育を排し、子供の自主性を伸ばすために教師は教える「指導」ではなく、アドバイスし見守る「支援」に徹すべきとされました。

 また、小学校段階の読み・書き・計算の反復学習は、詰め込み・教え込みの「旧い学力観」の教育だとして否定的に扱われ、「自ら調べ・まとめ・発表する問題解決型」の授業をすることが奨励されました。 

 新しい学力観の理想はよいのですが、文章も読めず、漢字も書けず、辞書の引き方も分からずに、自主的に調べ学習をするなどという高度な学習はできません。また、このような学習の中で学習規律が崩れ、自分勝手な行動をする子供が出やすくなったことも事実です。教育現場の真実は、「教師の粘り強い徹底反復の指導で基礎学力や学習への構え、学習能力を鍛えて初めて、子供たちは自主的に学習を進めていくことができる」ということです。特に、小学 4 年生までは基礎学力を反復学習でしっかり身に付けることが大切であり、そこがおろそかになっていては、その後の学習は実りの乏しいものになります。

 新しい学力観の登場で、小学校では読み・書き・計算の反復学習がすたれてしまい、基礎的な計算力や言語能力が著しく落ちていきました。しかし、高校入試がある中学校では授業レベルを落とすわけにはいきません。その結果、基礎学力の足腰が弱っている子供たちのつまずきは、中学校でより深刻になりました。彼らは毎時間「分からない」という事実の前で、「私は馬鹿だ」「なにをやってもだめだ」との虚無感に包まれ、一方では無気力に、他方では授業妨害や立ち歩き、時には憎悪からの破壊に至りました。単純化すれば、これが9 0 年代の深刻な「学力低下」「学校の荒れ」の真相だったのです。

読み・書き・計算で「やればできる」が実感できる

読み・書き・計算といった基礎学力は、段階を踏んで練習を繰り返しさえすれば、どの子も必ず身につけることができます 。(意欲のない子でも、最初は毎日1分間の勉強から続ければ必ず力が付きます)しかも、この練習を通して、どの子にも「自分もやればできるんだ」ということを体験させ自信をもたせることができます。この「やればできる」という自信は何よりも大切です。この自信の回復が子供を元気にします。 とりわけ、音読・暗唱の効果は大きなものです。脳を活性化するだけでなく、子供を最も元気にもしてくれるのです。 この自信は 学習への構えにつながり、 学習意欲をも向上させます。また、自信は子供たちに精神的安定と落ち着きをもたらし、生徒指導上の効果も現れてきます。

さらに、読み・書き・計算で、集中力や持続力などの学習能力が著しく高まります。この「集中力」や「持続力」は、物事をやり遂げ、考え、創造するときに最も必要な能力(=生きる力そのもの)です。

ところで、読み・書き・計算の反復学習には若干のつらさが伴うものですが、そのつらさを乗り越える中で「少々の困難にも立ち向かって乗り越えていく力」や「チャレンジする力」も身につけることができます。小学校時代に読み・書き・計算を徹底的に鍛えてきた子は、中学、高校、大学生や社会人になっても、困難なことにも立ち向かい、物事をやり遂げることができるのです。

読み・書き・計算の反復学習でIQ(知能指数)が高まる

最近の脳科学の発達で、「読み・書き・計算の反復学習、とりわけ音読と単純計算が、思考力や創造力を司っている大脳前頭前野を最も活性化させる」という効果が明らかになっています。さらに 、読み・書き・計算の反復学習を継続すればIQ=知能指数が伸びることも分かっています。

「読み・書き・計算とIQ」のデータを全校児童で取ったのが陰山英男校長の土堂小学校です。土堂小は、週3回1限目をすべて「基礎学力の時間( 15 分モジュール×9コマ)」に充て、読み・書き・計算の徹底反復学習に取り組んでいます。土堂小では、「早寝・早起き・朝ご飯」も徹底されており、6年生でもほとんどの子供たちが夜9時半までに寝ているとのことです。さて、土堂小の3年間の実践で、全校児童のIQ平均は104だったのが、2年後には113に、3年後には115にまでアップしています。しかも、IQ120以上の児童が2年後に30%、3年後には42%になっています。また、3年後にはIQ100未満の児童は大幅に減少して10%未満になったとのことです。

IQは万能ではなく、IQと創造性・発想力とは相関関係が薄いといわれています。しかし、IQが高いということは集中力・持続力が高いことであり、作業処理能力や記憶力にも優れることなのです。

IQの差は小学校ではそんなに目立ちません。小学校では、作業処理の速さより、ていねいであることの方が重要で学業成績にも直結しています。しかし、中学、高校と上がるにつれ、IQの差は学力での大きな差になっていきます。IQが高ければ、猛烈なガリ勉をしなくても楽に学力を身に付けることができます。逆に、IQが低ければ、普通の人の2倍、3倍の時間も勉強しなければ学力を身に付けることはできません。学習能率が全く違うのです。残念ながらこれが現実です。

しかし、 小学校時代に読み・書き・計算の反復学習にしっかり取り組めばIQは高めることができます 。ただし、脳を鍛えるには、スピードやテンポが極めて重要です。ですから、反復学習は、だらだらやるのでなく「ていねいさ」とともに「テンポのよさ」を重視してやることが大切です。

また、脳科学では、他にも脳の前頭前野を活性化するものとして、早口言葉、折り紙、あやとり、習字、そろばん、百人一首、そして、将棋、囲碁なども効果があることが分かっています。これらにも楽しみながら取り組めたらIQを高めるのに大いに役立つでしょう。

記憶力も小学校時代が鍛える旬です。この時期は記憶力を飛躍的に鍛えることができます。事実、最も丸暗記でき、この頃詰め込まれた知識は一生、血となり肉となります。ですから、教科書の暗唱や都道府県名や国名、年号、百人一首など、いろんなことの丸暗記に挑戦させましょう。特に、リズムのある百人一首は記憶力を鍛えるのに最も効果的です。考える力と創造する力は、暗記の後で伸びてきます。

本校の毎朝 15 分間の「基礎学力の時間」では、基礎計算の練習を中心に(百人一首の暗唱や漢字練習などにも)取り組んでいます。基礎計算の練習を中心にする理由は、IQを飛躍的に伸ばす効果があるだけでなく、学力向上効果もあるからです。立命館大学の調査で、小学5年生を、一方は10マスや 100 マス計算といった基礎計算を高速で練習するグループと5年生の計算をやるグループに分け、半年間毎朝 15 分ずつ学習をさせたという調査です。そして、半年後に5年生の計算でテストしたところ、基礎計算のグループの方が 10 %も成績がよかったというのです。これが基礎計算の学力向上効果です。 

なお、本校では高学年でも 10 マス計算に取り組んでいる場合がありますが、これは、計算が苦手な子を含めて学級全員の計算力を高める取り組みです。 10 マス計算でもIQアップ効果は十分あります。

本校では、確かな基礎学力を鍛えた上で、多様な学習に取り組むことを目指しています。

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