すぎた きゅうしん
杉田久信の “現場”
からの教育提言
 ≪基礎学力で教育再生≫

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校長室の窓から

「基礎学力の時間」で学習の構えをつくる

富山市立山室中部小学校 校長室通信        第28号  (平成20年5月27日)

 

24日(土)の運動会では、保護者のみなさまには、子供たちを励まし応援してくださりありがとうございました。また、PTA役員の皆様には、準備から後片付けまで献身的に手伝っていただき心より感謝しております。おかげで、子供たちの力強いパワーが伝わってくる素晴らしい運動会になりました。とりわけ、本校の応援合戦は、毎年他校の参考にされる程のレベルの高さですが、今年も子供たちの一致団結とアイディアの豊かさが感じられるもので感動しています。本当にありがとうございました。

さて、本校では、5月に入って運動会の練習が本格化しても、通常の授業の削減を最小限に押さえ、とりわけ毎日の 15 分間の「基礎学力の時間」は、しっかり確保して通常以上に熱心に取り組んできました。運動会一色になると一部に浮ついた子供が生じる傾向があります。それを防ぐため、運動会練習期間でも基礎学力の時間に力を入れて、学校全体を引き締め子供たちの 学習の構えを崩さない ように配慮してきました 。毎日、この時間に学校を巡回してみると、すべての学級で熱心に反復学習が行われていました。これだけの大規模校なのに、ふらふらしている子が一人もおらず、いきいきと学習に取り組んでいます。特に、入学して間もない1年生のすべてがしっかり学習に取り組んでいる姿は感動的でさえあります。先生方の本気が伝わってきます。子供たちにも満足感が大きいように見受けられます。

今回は、本校の特色である、この「基礎学力の時間」のねらいや効果について記したいと思います。

 

「基礎学力の時間」が始まった経緯:ねらいは学力向上でなく生徒指導

 「基礎学力の時間」の発想の原点は、私が若い頃に勤務していた学校での経験にあります。その学校の6年生は、どの先生方も担任になることを拒否するほどの問題行動続出の荒れている学年でした。その学年主任に、私がいきなり任命されました。戸惑いながら学年を組んだ3学級の先生で相談したのは、まず授業の成立を図るために、学年ぐるみで1限目は簡単な読み・書き・計算に重点的に取り組ませようというものでした。音読や漢字、レベルを落とした計算に取り組んでみました。これが思いの外効果があり、短期間のうちに子供たちに学習の構えが身に付いて学年を立て直すことができたのです。(今から思えば、学年を組んだ先生方の指導力が高かったことが要因として大きかったのかもしれません)

このときの経験をもとにして、前任の五福小学校で、校長として何とか学校全体に落ち着きと規律を確立できないだろうかと考えて、平成13年の4月から学校ぐるみで実践したのが「基礎学力の時間」の始まりです。学力向上ではなく、あくまで生徒指導が第一の目的でした。

同じ頃に兵庫県の山口小学校での読み・書き・計算の反復学習がNHKクローズアップ現代で話題になりましたが、そこのやり方は、各学級の国語と算数授業の、最初の5〜 10 分間を音読・漢字や 100 マス計算に充てるというものでした。しかし、山口小学校のように各学級でバラバラの時間に反復学習を行うという体制では、やる学級とやらない学級が生じてしまいます。実際にやっているかどうかもチェックすることが困難です。これでは学校ぐるみの取り組みにはなりにくいものです。そこで、「基礎学力の時間」を特設して全校一斉に行い、校長がこの時間に巡回すれば実践の様子を一度に確認できます。そう すれば学校ぐるみで徹底した取り組みになると考えたのが「基礎学力の時間」です。

本気で取り組めば、「基礎学力の時間」の効果は短期間で実感できる

前任校で「基礎学力の時間」を実践したところ、わずか2ヶ月ほどで劇的な効果が現れました。子供たちの学習の構えが格段によくなり、学校全体に引き締まった雰囲気が醸成されてきたのです。当初は、反復学習そのものに反発する先生や半信半疑の先生も少なからずいましたが、実際にすべての先生方が実践してその効果を実感したため、納得して学校ぐるみの取り組みになりました。これを続けたところ、学校全体の落ち着きと規律の確立だけでなく、子供たちの集中力や持続力が著しく伸びて、学力の向上にもつながり、先生方や保護者・地域の皆さんも確かな手応えを感じることができました。ただ、「新学力観」全盛の当時の教育界は反復学習そのものへの抵抗感が強く、時間を揃えて全校一斉に読み・書き・計算の反復学習に取り組むという実践は全国でも皆無でした。そのため外部の先生方からは、真意が理解されず、一部から「詰め込み教育だ」「考える力をつぶす」といった激しい批判を浴びました。しかし 、脳科学で「音読と単純計算が脳を最も活性化する」という研究成果が明らかになったり、文部科学省から「学びのすすめ」が出されたりしたことで批判は鎮静化しました。それどころか、多くの学校が漢字や計算の練習の時間を設定するようになりました。ただ、その多くの学校では、週1 , 2回の実施だったり、朝自習だったりで、この時間に学習の構えを確立するという発想すらないのが現状です。

本校で「基礎学力の時間」が始まったのは、平成17年の9月からです。その年の一学期と夏休みの期間中に、十分時間をかけて教職員の共通理解と合意形成を図りました。それで、スムーズな実施となりました。本校でも、実施して2ヶ月もしないうちに学校全体が引き締まり、学習の構えが身に付き「やればできる!」という自信と喜びをもった子供が大幅に増えました。それは、漢字、計算のチャレンジテストの高成績にもつながりました。また、問題行動も大きく減っていきました。

本校の先生方は、この時間を創意工夫して指導しています。現在は、ICTのデジタルコンテンツの活用も採り入れるなど、より効果的な指導を目指して日々進化しています。

 

「基礎学力の時間」の効果

 基礎学力(読み書き計算)の反復学習の効果をまとめると以下のようになります。

@ 知識や技能の確かな定着

A 学級に学習の規律が生まれ、学習の構えができる

B 「やればできる!」を実感させ、自信と喜びをもたせられる

C 集中力や持続力など学習能力が高まる

D 脳が活性化する

E 学習意欲も向上する

F 精神的安定と落ち着き → 生徒指導上の効果あり

G 子供が元気になる(特に、音読・暗唱では脳も身体も心も活性化します)これが最大の効果

基礎学力の反復学習は、「できた!」「分かった!」という達成の自信と喜びをもたせるのに向いています。順序を踏んで繰り返し練習すれば、どの子も必ず達成感をもつことができるからです。この自信と喜びは、次のチャレンジへの意欲につながり、自信と喜びの学習サイクルができます。このことから、 基礎学力の学習は学童期の人格形成の原動力となる のです。(注:人と比べない)

脳科学では、音読と単純計算が大脳前頭前野を最も活性化することが分かっています。さらに、ごく最近の研究では、「音読や単純計算で最も伸びる能力が、実は思考力だ」という意外な内容が明らかになってきました。また、わずか5分間の音読や単純計算を行うと授業中の記憶力・理解力が20〜30%高まることや、反復学習を継続すればIQ(知能指数)も高まることも確認されています。

 

「基礎学力の時間」の限界

 「基礎学力の時間」は毎日わずか15分間ですが、学校全体の学習習慣をつくるには効果的です。しかし、限界もあります。これまでの実践から、生活習慣が崩れている子、愛されている実感・確信のない子には効果が薄いことが分かっています。エネルギー不足や心の不安定で短い時間も学習に集中・持続できないからです。早寝・早起き・朝ご飯の重要性、ご家庭との連携の必要性を実感しています。

【なお、本校は国語、算数などの教科だけでなく、生活科や総合的学習にも熱心に取り組んでいます】

 

 

 

 

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