すぎた きゅうしん
杉田久信の “現場”
からの教育提言
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校長室の窓から

「百人一首」暗唱の意義と効果

富山市立山室中部小学校 校長室通信        第29号  (平成20年7月11日)

本校では「百人一首」にも力を入れて取り組んでいます。大半の学級では全員そろって一歩一歩暗唱していく方法をとっています。現時点でも多くの学級で60首や70首くらいまでなら全員がスラスラと暗唱できるようになっています。ご家庭の全面的なご協力で、何も見ないで百首を暗唱できる子供たちも増えています。しかし、一部に、 意味も分からずに、百人一首を暗唱させても無意味でないか 」といった疑問や批判があります。そこで、今回は「百人一首」を暗唱する意義と効果について考えてみたいと思います。

 

意味も分からずに暗唱した百人一首は、後に教養や知性の骨格になります

 

乳幼児はどのようにして言葉を覚えていくでしょうか。乳幼児は意味も分からないのに言葉を丸ごと真似しているうちに、パターンを認識して自然に意味が分かって言葉を使いこなすようになります。これは驚くべき能力です。乳幼児は言葉の意味が後から分かっていくのです。つまり、人間の最初の学習は「言葉そのものを繰り返して覚える」のが先であり、「意味の理解」は後なのです。後から「意味が分かる」のは決して特殊なことではなく、むしろ理解の基本型なのです。これは言葉の学習では特に顕著です。百人一首の音読・暗唱でも意味の理解を早急に求めるのでなく、日本語の美しい言葉そのものを繰り返し心に刻みつけてこそ、心の底に深く根ざした真に生きた言葉として育っていくものです。これこそが本物の力です。反復徹底で身につけたものは長く忘れないだけでなく、後に、その意味が深い次元で理解され、感性、創造性につながる真の知恵となるのです。

意味も分からずに暗唱した名文が、後に子供たちの教養や知性の骨格になっていくのです。意味の理解を早急に求めると、浅い理解や間違った理解になる恐れがあります。百人一首に関しても、しっかり暗唱していれば遅くとも高校生くらいになると、その意味は自然に分かっていきます。しかも、高校生にしては深い理解になっていることが多いものです。

歴史的に見ても、素読(=音読を繰り返すこと)・暗唱の教育の中から優秀な人物が多数育っています。例えば、明治のころに個性あふれる英雄・偉人たちが多数出現しましたが、これは江戸時代後期の寺子屋や藩校で盛んに行われた論語などの漢文の素読・暗唱の教育の成果であると考えられるのです。イギリスでも最も繁栄したエリザベス女王の時代の教育は、ラテン語の古文の素読・暗唱を中心にした教育で、優秀な人物や英雄が多数育ち大活躍したといいます。戦後日本で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士は、幼少期から四書五経の素読を教わって育っています。また、ノーベル賞の3分に1がユダヤ系の人だといわれていますが、今もユダヤ民族の教育は幼児のときから膨大なユダヤ教の経典を徹底して素読・暗唱させることで知られています。音読・暗唱の教育は記憶力ばかりか創造力も高めるようです。素読ではひたすら音読を繰り返し、意味の理解は早急には教えません。後にわずかに解説しますが、基本的には自然に分かっていけばよいとしています。この素読・暗唱などの古くからの教育法は、最近の脳科学、学習科学、右脳教育などから再評価されてきています。

 

「百人一首」の暗唱で 国語力が伸びる

 

 国語力とは突き詰めれば、他人の言葉が理解でき、自分の言葉で表現できる力のことです。この国語力は学力の最も基本となるものであり、生きていく上でも大切な力です。

「百人一首」の音読・暗唱に取り組んできた子供たちは例外なく、中学校や高校で「古文」の学習に全く抵抗感がなく、むしろ親しみを感じて得意分野になります。これは、一般によく知られている「百人一首」の効果です。しかし、それだけではありません。何よりも 「百人一首」の音読・暗唱は美しい日本語を身につけ、言葉への感受性を高め、国語力そのものを伸ばすのに極めて効果的なのです。現代語の源流になっている「古文」の音読や暗唱が、日本語のニュアンスへの感受性を著しく高め、結果として国語力を伸ばしてくれます。

実際に、大学受験で飛躍的に国語力を伸ばしている有名なカリスマ家庭教師や成果を上げている受験予備校の指導の秘訣が、「古文」を音読・暗唱させることなのです。古文の中でも「百人一首」は最も取りかかりやすく小学生の暗唱に向いています。これまで多くの子供たちを見てきましたが、百人一首を百首全部覚えている子供たちの国語力は明らかに高く、国語のテストの成績も断然高いのです。

また、「百人一首」などの音読・暗唱に力を入れてきた先生方が誇らしく語るのは、10年以上たって、多くの教え子たちから一番感謝されるのが小学校時代の「百人一首」や名文・詩文の暗唱だということです。教え子たちは、「今でも折に触れて、さっと唱えたり話の中で引用したりすることができるので、周囲から尊敬の目で見られる」と語っています。

 

「百人一首」の暗唱で記憶力が飛躍的に伸びる

 

 また、彼らは、「 中学や特に高校へ行くようになると、学習する量は小学校とは比べものにならないほど多くなった。この大量の学習内容に多くの生徒が気力を喪失していたが、私は苦しまずに学習できたし順調に記憶もできた。これは小学校時代に百人一首などを暗唱したことで記憶力が鍛えられていたからだと実感している」と言うのです。

 記憶力は小学校時代が鍛えるのに最も適しています。この時期は最も多くのことが楽々丸暗記でき、この頃に覚えた知識は血となり肉となって一生忘れません。しかも、この時期に鍛えた「記憶力」は拡大を続け中学、高校だけでなく人生を通して力を発揮します。リズムがあって覚えやすい「百人一首」はこの記憶力を伸ばすのに最適です。この「百人一首」の暗唱は、小学校時代、それも低学年ほど容易に覚えられるようです。そして「百人一首」を百首覚えた子供たちの自信は大きく、実際に記憶力は飛躍的に鍛えられています。

今日、記憶力よりも創造性や思考力が重要とされ、子供に暗記させることは人気がありません。しかし、 記憶力は知力の中核です 。 記憶が確かになると、理解や思考やイメージも確かになります 。理解力、思考力を伸ばすには、まず記憶力を鍛えることが最も確実な方法です。子供たちの思考力や創造力は、暗記の後で伸びてきます。小学校時代に集中して暗記に取り組んだ子供は、頭の質が変わります。質のよい記憶力が育ち、理解力や思考力やイメージ力も伸びるのです。すると、中学や高校でも学習がとても楽になります。

 

テンポのいい反復徹底が暗唱のコツです

 

 「百人一首」などを暗唱するコツは、楽しみながらテンポよく反復徹底することです。右脳教育では、音読・暗唱の聴覚刺激が、記憶回路を開くカギであり、暗唱の反復徹底は脳の深層部にも届くとされています。ただ、記憶回路を開くためには、私たちの常識をはるかに越えた繰り返しのレベルが必要だといいます。十回や二十回の繰り返しでは、暗記したとしてもそれは浅い記憶であり、五百回、千回と繰り返しを多くする(速度も速くする)ほど深い記憶になり、その過程で記憶回路が開いてくるといいます。しかし、一旦、記憶回路が開けば、「労せずして記憶できるようになる」ようです。

百人一首を鑑賞する上では、朗々としたテンポで音読・暗唱することが時には必要でしょう。しかし、速いテンポでリズムにのって何度も繰り返す「高速暗唱法」の方が早く・深く記憶できます。しかも、子どもたちは速いテンポを好み、時間も大幅に短縮できます。最近の脳科学でも、音読・暗唱のテンポは速いほど脳が活性化することが分かっています。

 

•  夏休みに百人一首の暗唱に挑戦を。 「百首暗唱」の達成者続出を期待します。

(百首達成にもレベルがあります。百首を7分以内で暗唱できるレベルを目指しましょう)

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